生薬手帳Crude drug

ウメ

基源
学名 Prunus mume (Siebold)Siebold&Zucc.

【科名】バラ科
【生薬名】烏梅(ウバイ)
【薬用部位】未熟果実を薫蒸(黒くなるまで弱火で炒る)し乾燥したもの

中国中部の原産の落葉小高木から高木で、奈良時代(710~784)以前に薬木として渡来したのがはじまりと考えられています。 これは、『古事記』(712)や『日本書記』(720)には登場しませんが、『万葉集』(629~759)にウメを詠んだ歌が萩の百四十一首に次ぎ、2番目に多い百十八首収載されていることが理由とされています。 また、この頃の「花見」といえば、もっぱらウメを観賞する風習でしたが、平安時代(792~1192)へと移り変わると、次第にサクラに代わっていきました。

淡紅色の梅

『古今和歌集』(914)の収載歌においても、ウメよりサクラが圧倒的に多くなっています。花は観賞、果実は食用として広く各地で栽培され、平安時代の新年の花に、歳寒三友(さいかんのさんゆう) 「松竹梅」のひとつとして、めでたいことを象徴する植物として、古くより日本人に愛されてきました。
そのため、最も多い紋様のひとつとなり、梅紋と呼ばれる家紋も多く用いられています。

花は早春、百花に先立ち、前年に伸ばした枝の葉芽の脇に1~3個つきます。葉の出る前に開き、芳香があります。花柄(かへい)と呼ばれる花を支える茎はほとんどなく、直接枝につくように花を咲かせます。
したがって、同じバラ科の仲間で、ウメよりも長い花柄を持つサクラやモモとを見分けるために役立つ特徴のひとつです。

ウメ 蕾

白梅 蕾

白梅 八重咲き

花色は一般に白色で、5枚の花弁(花びら)を持ち、広倒卵形と言われる卵を逆さにしたような形で、先端は丸くなっています。また、紅色や淡紅色、八重咲きのものと多様で、園芸品種は300を越えます。

果実は、緑色の球形で一方に浅い溝があり、梅雨の頃黄色に熟します。そのため、これが梅雨という言葉の由来ではないかとも言われています。
生薬名は、烏(カラス)に梅で「烏梅(ウバイ)」と読みますが、これは未熟な果実青梅を煤煙(すすけむり)で薫製にしたもので、真っ黒な外見をしています。 その様子がまさに烏の黒さそっくりであることから、烏梅という名が付いています。

青梅

青梅

中国最古の薬物書である『神農本草経』にも収載されており、中国では広く利用されてきました。 また、ウメという名の由来は、その烏梅の中国読みウメイが訛ってウメになった説や、韓国語のマイからきたなどと諸説あります。 一方で、日本最古の薬物書である『本草和名』(918)には、「梅実は烏梅(うめ)、白梅は牟梅(むめ)」と果実と花とを区別している記録もあります。

「本草和名」(918)の記載

本草和名

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

「本草和名」(918)の表紙

本草和名

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

その頃の学者の間では、植物名がウメかムメであるかの論争が絶えず、「梅咲きぬ、どれがうめやらむめじゃやら」という与謝蕪村の句からも、当時の様子を想像することができます。 ウメの学名は、江戸時代に長崎出島に来ていたシーボルトによって付けられたもので、プルヌス・ムメと当時の日本人が呼んでいた名前をそのまま学名に取り入れました。 学名からもわかるように一時はムメとも呼ばれていたようですが、ウメに統一されて現在に至っています。

淡紅色の梅 八重咲き

成分としては、ウメの酸味となるクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸などの有機酸、その他にオレアノール酸などのトリテルペンを含みます。 烏梅はもっぱら風邪に、清涼性収斂作用の解熱・鎮咳・去痰・下痢止め・吐き気止め・回虫駆除・整腸などの効果があります。

また、江戸時代に確立した日本の民間薬としては、梅肉エキスがあり、急性腸炎、赤痢、食中毒の治療から、扁桃腺、咽頭炎、感冒、たむしなどに効用があるとされています。 また、梅肉エキスを製する際の、加熱濃縮によって生まれるムメフラールには血流改善効果があると言われています。 そして、忘れてはならないのが日本国民の健康食である梅干しや梅漬け、更には家庭でもよく作られる薬酒のひとつ、梅酒があります。これらは食欲増進・疲労回復・健胃整腸などに役立ちます。

黄熟した梅の実

黄熟した梅の実

しかしながら、未熟な果実の青梅は微量の青酸配糖体であるアミグダリンを含むことから、生食すれば中毒を起こすため危険であり、様々手を加えて活用する必要があります。

<文献>
牧野和漢薬草大図鑑(北隆社)
薬草歳時記(ぎょうせい)
植物楽趣味(牧 幸男)
薬草カラー図鑑 私の健康 別冊(主婦の友社)
くらしの薬草と漢方薬(新日本法規)
信州身近な薬草(信濃毎日新聞社)
改訂版 汎用生薬便覧