生薬手帳Crude drug

ウンシュウミカン

基源
学名 Citrus unshiu (Swingle) Marcow.

【科名】ミカン科
【生薬名】陳皮(成熟果)・青皮(未熟果)
【薬用部位】成熟した果皮 それぞれ果皮を乾燥したもの(日本薬局方収載)

中国から渡来し、日本で改良されたミカンの品種で、日本の関東以南の暖地で栽培されている常緑の小高木。
花は白色で初夏に咲き、爽やかな芳香があり、果実は扁球状で果皮は精油を含み、果肉は多汁質で初冬に黄熟します。

現代において「みかん」は、通常ウンシュウミカンを指します。 中国浙江省温州に因んでウンシュウミカンと命名されましたが、遺伝研究の結果としては、本種は温州原産ではなく日本の鹿児島県原産との研究報告があります。 とても甘く美味しいにも関わらず、種子ができにくいことから、江戸時代は子宝に恵まれないことに通ずるとして忌み嫌われ,全国的に普及したのは明治に入ってからです。

ミカンとして最初に日本に広まったのは別種の小ミカンです。 中国との交易港として古くから栄えていた肥後国八代(現・熊本県八代市)に中国浙江省から小ミカンが伝り、高田(こうだ)みかんとして栽培されていました。
それが15 ~16世紀ごろに紀州有田(現・和歌山県有田郡)に移植され一大産業に発展したことから「紀州」の名が付けられました。 江戸時代に普及していたのは本種より小型の小ミカン(紀州蜜柑)Citrus kinokuniであり、「みかん」を代表していたのはこの小ミカンでした。

江戸時代の豪商である紀伊国屋文左衛門が、当時江戸で高騰していたミカンを紀州から運搬し富を得たことでも有名です。私は浪曲をこよなく愛す一人です。 三十石船は広澤虎三の代表作で、森の石松の「寿司食いねえ」の一段は古い人なら誰も知っている箇所です。その中に「みかんで売り出す あの紀伊国屋文左衛門」という一説があり、 最高潮への盛り上がりの重要な箇所でありますが、学名による種名の「kinokuni」が紀伊国屋文左衛門に由来するものかは確認できませんでした。

漢方では未成熟なものの果皮を干したものを青皮(セイヒ)、熟したものの果皮を干したもの陳皮(チンピ)として利用します。 芳香性健胃薬、風邪薬、去痰薬、鎮咳薬などとして多用されています。 果皮には精油が含有されており、精油成分は主にリモネン90%です。その他に、成分としてヘスペリジン、ルチンなどフラボン配糖体が含まれています。 ヘスペリジンは、毛細血管の透過性を増大させる作用があり、 もろくなった毛細血管を回復させることが知られているほか、抗菌、利尿、抗ヒスタミンなどの作用もあります。 したがって、高血圧の予防、腎炎、蕁麻疹の予防に役立つ漢方薬の一種でもあります。 外皮を陰干しして乾燥させ、1年以上たった果皮が生薬として利用されます。

漢方の言葉に、六陳八新(りくちんはっしん)という言葉があります。生薬を使う場合、陳(古いものを使え)、新(新しいものを使え)という教えですが、
陳には、麻黄、狼毒、呉茱萸、半夏、陳皮、枳実の6種類、 新には、蘇葉、薄荷、菊花、桃花、款冬花、沢蘭、塊花、赤小豆の8種類が挙げられています。

陳(古いものを使え)、新(新しいものを使え)の教えですが、精油その他の成分で身体に害がある生薬は十分寝かし、精油の揮発、空気酸化等で毒性の無い状態にしてから用います。
また揮発性成分が薬効として必要な生薬は出来るだけ新しい物を使用します。年を越した物は使用しません。よって、陳(古いものを使え)である陳皮は1年以上たった果皮が用いられるわけです。

<文献>
牧野和漢薬草大図鑑(北隆社)
日本の野生植物(平凡社)
本薬学会薬用植物一覧(web)