生薬手帳Crude drug

センブリ(日局収載)

基源
学名 Swertia japonica (Schult.) Makino

【科名】リンドウ科
【生薬名・俗名】当薬(とうやく)、千振
【薬用部位】開花期の全草

日本各地に分布し、日当たりの良い山野に自生する二年草です。
茎は高さ10~25cmで四角く、しばしば分枝します。茎葉は対生で線形から倒披針形をしています。

花期は9~10月で、枝先と葉腋に白色で紫色の条線のある花を多数つけます。
スウェルチアマリンなどの有効成分は花のつぼみに最も多く含まれており、品質の良いセンブリの採取は花が二分咲の頃を適期としていたことからも、かつて薬草の採取者はそのことを熟知していたのだと考えられます。
近年は、自然環境の劣化により自生地が失われており栽培がおこなわれています。

ドクダミ・ゲンノショウコと並び、三大民間薬に数えられる日本の代表的な薬草です。
単味で用いる民間療法のみならず、胃腸薬関連の生薬製剤に多用されています。薬効は苦味健胃剤として胃腸病・下痢・腹痛・消化不良・食欲不振などに用いられます。また、外用剤としてはぬけ毛・育毛にアルコール浸液を塗布します。

古い時代には医薬品としてではなく、のみや虱(しらみ)を殺す殺虫剤に使われていました。
それを現在のように胃腸薬として使い出したのは江戸時代の初期からで、遠藤元理の「本草弁疑」(1681)に「腹痛の和方に合するには、当薬を用べき」の記事があるのが初めです。「和漢三才図絵」(1713)で寺島良安は「和方の丸、散薬諸虫積聚(シャクジュ)の薬に入れて用いる」と述べていますが、腹痛の効果については触れていません。

「本草弁疑」(1681)の記載①

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国立国会図書館ウェブサイト」から転載

「本草弁疑」(1681)の記載②

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国立国会図書館ウェブサイト」から転載

そして、「今の人はもっぱら当薬で子供の肌着を黄色に染めて、のみ、虱から守るのに使っている」と記しています。このように、古くは殺虫が主で、本草学者もこのセンブリにはあまり関心を寄せていなかったように見受けられます。

日本が西洋医学の影響を受け始めた江戸時代の終り頃から、センブリが苦味健胃剤として認められ、殺虫の役目より重い医薬品の部類に加えられたといわれています。
明治二五年改正の第二版の日本薬局方には、竜胆(リンドウ)に代替えしうるものとして、当薬があげられています。その後大正九年改正の日本薬局方には、正式に本品が収載され現在に至っています。

全草に苦味成分のセコイリドイド配糖体のスウェルチアマリン、スウェロサイド、ゲンチオピクロサイド、アマロゲンチン、アマロスベリン、キサントン誘導体のスウェルチアニン、スウェルチアノリン、フラボノイドのスウェルチシンなどが含まれます。
このうち日本薬局方規格試験の指標成分として「スウェルチアマリン2.0 % 以上を含む」旨が記載されています。

「良薬は口に苦し」という言葉があります。
多くの方はセンブリを思い浮かべるのではないでしょうか、しかし、このことわざは孔子の教えで、「忠言耳に逆う」と続き、苦味のある薬草の効果について説明しているものではありません。
これは「病気に効果のある良い薬は、苦くてとても飲みにくいものです。忠言や忠告は聞いて快いものではないが、本人のためになる」という意味で、現代でも通じる人生の良薬といえるでしょう。

<文献>
牧野和漢薬草大図鑑(北隆社)
日本の野生植物(平凡社)
公益社団法人日本薬学会薬用植物一覧(web)
薬になる野の花・庭の花(指田豊著 NHK出版)