生薬手帳Crude drug

キクバオウレン

オウレン

基源
学名 キクバオウレンCoptis japonica (Thunb.) Makino

【科名】キンポウゲ科
【生薬名】黄連
【薬用部位】根茎

日本特産の薬用植物で、山地の冷涼・湿潤な木陰に自生し、または栽培される常緑の多年草です。
花期は早春、10cmほどの花茎の先に、小さな白花を2~3個咲かせます。

キクバオウレン 袋果

花は雄株と雌株が区別され、花びら状に見えるのは実は萼(がく)であり、さじ形の花弁は目立ちません。 未だ周囲が冬の眠りにつく春先に花を付けることからも、見過ごされてしまいがちな植物です。
花の咲き終えた初夏には袋果(果実)が放射状に並び、その先端に穴が開いているのが特徴です。

Coptein(切る)から転じた属名Coptisが意味するように、葉の分裂の仕方によって種が分けられており、 1回3出複葉のキクバオウレン(菊葉黄連)、2回3出複葉のセリバオウレン(芹葉黄連)、3回3出複葉のコセリバオウレン(小芹葉黄連)の3つの変種があります。 その他の日本産にはミツバオウレン(三葉黄連)、バイカオウレン(梅花黄連)などがあり、それぞれの名前は特徴的な葉形や花形から名付けられています。

セリバオウレン 花

セリバオウレン 花

セリバオウレン 袋果

セリバオウレン 袋果

コセリバオウレン 花

コセリバオウレン 花

コセリバオウレン 袋果

コセリバオウレン 袋果

また、黄連の名前は漢名由来であり、根茎が節状に連なり横断面が黄色い様子から、その名が付いたとされています。日本で黄連は「播磨国風士記」(714)に初めて出てきます。

「播磨国風士記」(714)の記載

播磨国風士記

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

「播磨国風士記」(714)の表紙

播磨国風士記

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

当時日本名でカクマグサやヤマクサと呼ばれていましたが、「本草和名」(918)や「延喜式」(927)において漢名の黄連と同一物だとみて、それ以後置き換えられてきました。

「本草和名」(918)の記載

播磨国風士記

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

「本草和名」(918)の表紙

播磨国風士記

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

薬用部は根茎ですが、根茎の小さな種は用いられず、主としてセリバオウレンとキクバオウレンが利用されます。 成分としてはアルカロイドのベルベリンの他に、パルマチン、コプチシン、オウレニンなどを含みます。 主成分ベルベリンは苦味と抗菌作用(特に黄色ブドウ球菌、赤痢菌、コレラ菌などに)があり、苦味健胃や整腸に、または胃腸にもとづく精神不安、不眠、炎症などに効果があるとされています。

ミツバオウレン

ミツバオウレン

黄連は民間薬の用途として、苦味健胃や整腸、胃炎、消化不良、下痢止めに用いられてきました。 また、中国最古の薬物書『神農本草経』にもある漢方の要薬でもあり、充血、炎症、動悸、精神不安、胃つかえなどに黄連湯など、その他多くの漢方方剤にも利用されています。 しかしながら、体力が衰えている人にはあまり用いない方がよいとされています。

バイカオウレン

バイカオウレン

この春、4月より、日本植物学の父と呼ばれた牧野富太郎博士がモデルのNHK連続テレビ小説『らんまん』が放送予定ですが、梅の花に似たバイカオウレン(梅花黄連)は牧野先生がこよなく愛した花のひとつとしても有名です。

<文献>
牧野和漢薬草大図鑑(北隆社)
日本薬草全書(新日本法規)
薬草カラー図鑑 わたしの健康 別冊(主婦の友社)
信州薬草百科(信濃毎日新聞社)
改訂版 汎用生薬便覧