生薬手帳Crude drug

ホオノキ

基源
学名 Magnolia obovate Thunb.

【科名】モクレン科
【生薬名】厚朴(コウボク)
【薬用部位】樹皮(日本薬局方収載)

日本特産の落葉高木で山地または平地の林の中に自生します。
大きいものは樹高30m、直径は1m以上にもなり、真っすぐに立ち、まばらに枝分かれします。

ホオノキ 葉

ヤハズホオノキの葉

葉は枝先に集まり、輪を描くように、長さ20~40cmと、トチノキに並ぶ大型で卵を逆さにしたような長い楕円形の葉を7~8枚互い違いに付けます。

若葉は帯紅色(たいこうしょく)と大変美しく、生長すれば表面は深緑色へと変わります。裏面は帯白色であり、初夏の風に揺られて葉が裏返り白くなる姿をみれば、それがホオノキであると容易に見つけることができます。

ホオノキ 葉の裏

風により裏返る葉

また5月末頃、香り高い大型直径15㎝程の黄白色花を咲かせ、その大きさから遠くからでも咲いていることに気づきます。しかしながら、高い枝先に花を開くこともあって、間近で観察できる機会はそう多くはありません。
さらに、花の中には雄蕊(おしべ)と雌蕊(めしべ)が多数重なって付いていますが、開花直後に雄蕊(おしべ)はバラバラと落ちてしまうため、たとえ運よくお目にかかれたとしても、雄蕊(おしべ)の揃った完璧な状態の花を見ることは大変難しいです。

ホオノキ 花

ホオノキ 花

ホオノキ 枝先の花

枝先に咲く花

ホオノキ 枝先の花

ホオノキ 蕾

果実は小さな果実が多数集まった集果と呼ばれるもので、大型8~15cmと長い卵形のドリアンを思わせるトゲトゲした形状をしており、秋に成熟して紅紫色となります。
小さな果実(袋果)は次第に割れて、2個の赤い種子を出して白い種糸によって垂れ下がります。これを鳥が見つけて食し、外種皮を除いた黒色の種子を排泄することでようやく発芽が可能となります。

ホオノキ 葉

朴葉の採取風景

ホオノキは比較的早く生長しますが、種が散布されて花が咲くまでに13年はかかると言われています。葉、花、果実といずれも大型ですが、葉と花は日本の樹木の中で最も大きいものです。
植物名は、万葉の頃、ホオガシワと呼ばれ、日本最古の薬物書『本草和名』(918)には保々加之派乃岐(ほほがしわのき)の記述があります。

「本草和名」(918)の記載

本草和名 厚朴

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

「本草和名」(918)の表紙

本草和名 厚朴

国立国会図書館ウェブサイト」から転載

さらに、「多分、昔は木の葉に食物を盛ったのであろう。今日でも食品を包むのにこの葉を使う地方もある。云々」と牧野富太郎博士が述べているように、ホオガシワの名は、その大きな葉が料理を盛るために使われたカシワの葉と同様に利用されてきたことが分かります。

現在でも、信州木曽地域では月遅れの端午(たんご)の節句6月5日に、柏餅の代わりとして、あんの入った餅を朴の葉で包んだ伝統的な祝い餅、「ほう葉巻(ほお葉巻)」がつくられ愛されています。
特徴的なのは、枝先の7~8枚の葉を切らずに繋げたまま餅を包んでいるため、野性味あふれる自然の美しさをそのまま残した形態は、一度目にしたら忘れることができない印象を受けるかと思います。

朴葉巻

ほう葉巻

また、最終的に蒸しあげることから朴の葉の独特な香りが移り、素朴な味わいです。 朴の葉にはその芳香以外に殺菌作用を有しているため、食材を包むのに適しており、古くから用いられてきたと考えられます。

ほう葉巻(ほお葉巻)の由来は平安末期に信濃源氏の一族だった木曾義仲の時代に、戦に出る際に朴の葉を利用して味噌や米を包んだのが始まりだと言われています。 この他にも、魚や山菜などを具材とした酢飯を包んだ岐阜の郷土料理「朴葉ずし」、また落葉した葉は比較的火に強いため、味噌や他の食材を載せて焼く「朴葉味噌」や「朴葉焼」などの材料としても使われています。

ホオであるのか、ホウであるのかが度々議論にあがりますが、ホオはホウが転訛したものであり、どちらも正しいと思われます。
ホオノキは木部の材質は、緻密かつやわらかく、また狂いやひび割れが少ないために家具をはじめ、ピアノやオルガンのキー、漆器の木地、曲物、刀のさや、鉛筆やマッチの軸、下駄などの様々な用途に利用されています。

3枚の萼と閉じた花弁

乾いた樹皮は生薬名を「厚朴(和厚朴)」といい、本来の中国産カラホオノキ・ヤハズホオノキからなる厚朴とを区別するため、ホオノキの樹皮は日本産の意を含めて「和厚朴」とも呼ばれています。
中国産の方が強い香りがあり上等品とされていますが、薬効に差異はありません。 成分はアルカロイドのマグノクラリン、マグノフロリン、フェノール類のマグノロール、ホオノキオールなどを含んでいます。

効用は、健胃・整腸・利尿・去痰などに用いられ、胃腸薬として腹痛、嘔吐、下痢、胸腹部の膨満感などに効果があります。また、気のめぐりをよくし、ストレス性潰瘍にも有効です。
民間薬では、果実を煎じて解熱や健胃強壮薬に、種子は風邪や腹部のガスに、葉は日干しにして酢で練り幹部に塗布するとリウマチに効くとされています。 漢方処方に利用することが多く、咳やつわり、喉のつかえ、神経性胃炎に半夏厚朴湯、便秘に用いる小蒸気湯などが有名です。

<文献>
牧野和漢薬草大図鑑(北隆館)
日本薬草全書(新日本法規)
くらしの薬草と漢方薬(新日本法規)
薬草カラー図鑑(主婦の友社)
信州身近な薬草(信濃毎日新聞社)
信州薬草百科(信濃毎日新聞社)
植物楽趣(牧 幸男)
高浜町薬草図鑑
汎用生薬便覧
公益社団法人日本薬学会薬用植物一覧
農林水産省 うちの郷土料理 ほう葉巻(ほうばまき)